極楽鳥を探しに各話解説
数カ月のあいだ初めての長編に正面からがっぷり組む傍ら、数本のR18作品をPixivにアップした。そこは長編の方とは違って花道が渡米せず日本に残った世界線で、ふたりは当然の成り行きとして付き合っている。
前ジャンルに居た頃からずっと、いつか真正面からエロを書いてみたいと思っていた。自分はシスヘテロだから男女カップルでも良さそうなもんだけど、それをやるにはたぶんまだ消化しきれないわだかまりがありすぎる。ジェンダー規範と男女二元論に。この数年でBLをフェミニズムから読み解く書籍や記事もいくつか読んで、自分の中である程度の整理がついたのもある。つまりシスヘテロでありながら男性同士の恋愛関係を消費することの暴力性を分かったうえで書くことにした。ふたりが二次元のキャラなのもおそらく大きい。それでも性行為というめちゃくちゃプライベートなところに踏み込むのにはずいぶん時間を要した。2年がかりでようやくという感がある。
よし、エロを書くぞ。
一念発起した四十路オタク、いつかポルノを書くならやってみたいことがあった。
まず全編くまなく性的なシーンにすること。前戯は好きだが前置きはいらない。
身体性を大事にすること。見てきたように具体的かつ主観的に書く。
挿入する側を透明化しないこと。どっちの欲望も対等に書く。
…わぁ思想が強いかも!
どのSNSでも一切宣伝せずただ静かにPixivにアップしても、エロはある程度読まれる。反応も来る。言い換えれば二次創作のR18作品は、誰が書いても無料のポルノとしてたくさんの人の目に触れる。
ポルノにはおおむね型があり、お作法があり、大多数が何をエロいと感じるかは流行や慣れでどんどん変わる。同じような刺激はいずれ飽きられて、だんだん、もっと過激なものが求められ、溢れていく。
そういう中に突然出てきた、異物みたいな変なエロを書けたらなと思った。自分はこういうポルノが読みてーんだよというものがどこ探してもないのは、多分私が求めるものが人とは少しズレてるんだろう。だからこれをイイと思う人は多くないだろうけど、どこかの誰かに届く可能性があるならそれでいい。
そうして出来上がった短編集は4万字あまり、ふたりがひたすらずっとヤりながら考えたり対話したりする薄い本だ。挿入の有無やトップ・ボトムはさまざま。Pixivではそのどれにも洋平と花道で生成可能なすべてのカップリングタグをつけた。つまり#洋花、#花洋、#洋花洋、#花洋花の4通り、全部。あらやだお行儀が悪いこと。
本当はサークルカットなんかに「左右非固定」と書くのも抵抗があったりする。上下も左右もかれらの勝手にさせてやってくれないだろうか。先に書いた長編のほうがいわゆる「カップリングなし」だとも思ってない。別に寝ようが寝まいが、やってることは一緒だし。
それでは熱いうちにそれぞれの解説を。
1.Nameless Ever
長編が「名前のない関係」をテーマにしていたので、それを性行為ありのIFで書くならというコンセプトで書いた。
前半花道目線、後半洋平目線で、そういう関係になって間もない二人が毎夜のように抜き合いをしつつ、内心でいろいろ思い出したり考えたりする話。花道は新鮮な喜びを感じながらスキンシップを楽しむ一方、洋平は没入しつつもどこかでうしろめたさや葛藤を抱えているという自分の大好きなシチュエーション。やってることは同じでも、この時点でのふたりの内面の対比を出したかった。
抜き合いまでなので、まだ暴力性とかお互いの身体への侵襲性みたいなものはあまり感じない。そんな中で、「相手も自分と同じ気持ちならいいな」というスキンシップの根底にある部分を、(気持ちの違いはあっても)同じように感じているという表現にした。洋平の「これってセックスなのかな」は、「セックスしたいけど(男女間には無い)ハードルがある」ことと、「こんなに同じ気持ちになれるならこれってもうセックスじゃね?」の両方の意味がある。花道にとっては挑発か、品のない冗談に聞こえただろう。説明しないと伝わらないのは私の不徳の致すところでありますが…。もうちょっと表現詰められた気がするな。
2.サマー・オブ・ノート
海外にいる花道が洋平のことを思い出して自慰する話。完全に匂いと自慰というよく見かけるコンセプトありきでスタートした。滞在先に”彼シャツ”は持って行かないので、初夏の夜、帰宅途中にクチナシが香って来てなんかエロいにおいだな~と思ったのを使ってみた。花道は特に「なんか分からんがムラムラする」みたいな言語化しきれない身体感覚が行動や思考のトリガーになるタイプじゃないだろうかと想像した。キスの味を甘いと感じたり、性欲を味覚や嗅覚で感じるような表現も入れている。比喩的にというより、本当にそういう感じ方をする人もいるかもしれない。
勢いと成り行きでスキンシップや抜き合いをするようになったものの、次に行くためにはいっそう明確な意思が必要になってくる。お互い踏み出したい気持ちが出てきた中で、花道が自分自身や相手をどう受け止めて気持ちが動いていくのかという話に(結果的に)なった。
花道が健康的な性欲を後ろめたがることなく肯定的にとらえる様子を描いて、さわやかな読後感(笑)を目指した。題名はいろいろ悩んだ結果、夏の匂いみたいな意味合いの造語。
3.Liar, Liar
たぶん個人的に、初めて最後まですることに対してあんまり興味なかったりするんですよね…初めてのキスには割と興味あるのに。なので初めて最後まではとっくに通り越して、だいぶ慣れたふたりがちょっと荒っぽくする短い話。テーマは洋平の嫉妬であり、洋平が嫉妬する相手は多分どこかの誰かなどではなく…そして彼は絶対にそのことを言わないし、この点については花道はとことん鈍感だといいな、という。
基本的にかれらはずっと良い関係で居続けられると思うんだけど(他人が割り込む余地など一切ないくらいに)、それでも別々の人生を歩んでいるが故のちょっとした割り切れなさとか、花道がバスケを愛しているが故の寂しさはずっと付きまとうんだろうなと思う。そして花道側はそういう欠乏感とはきっとあまり縁がない。洋平が惜しみなく与える人だからというのもあるし、花道自身に独占欲がなさそうというか、ある意味他人の見返りを求めないタイプのような気がしている。
「私と仕事どっちが大事なの?」になってしまわないようにと気を付けたけど、結局そういう話ではある。なのでせめてニュアンスをひねくれた感じにして洋平らしさを出したつもり。
4.エコロケーション
越えられない自他境界をそれぞれが確かめる話。いわゆるマンネリ期ネタということになるだろうか。
身体が存分につながっても気持ちがイマイチですね、みたいなことってある。人間ってのは気持ちよさでも何でも変化がないとサチって何も感じなくなる。もっと先がありそうなのにそれが何かわからなかったり、これ以上進むには損なってはいけない何かが損なわれてしまうとわかってしまうのとか、それでもどうにかもっと深くつながり合いたい苛立ちとか、自問自答しながらモヤモヤしたままセックスする夜もあるだろうよと思って書いた、おそらく一番需要のなさそうな話。でも私は割と好きだったりする。
どんなに溶け合っても所詮他人同士に過ぎなくて、つながり合うために痛みを伴うこともあれば、痛みによって相手との境界を確かめられることもある。良くも悪くも。
花道目線の前半も洋平目線の後半も挿入される側の語りになったのはバランス面でちょっと心残り。でも挿入する側でこれをやると無理強いとか暴力的な感じになってしまう気がするのでこれで良かったのかもしれない。
エコロケーションとは蝙蝠やクジラ類が音波の反射を使って間接的に相手の情報を得る能力のこと。
5.Not for XXX
田〇圭が俺と結婚してくださーーーい!と言ったのはもう7年も前か。今や単にそれを叫ぶのは難しい段階に入ったよね、という話。結婚式とブーケと、最後の1文を最初に決めて組み立てた。
コンセプトである着衣セックスは個人的にそれほど萌えないが、カッコよく礼服を着こんだ花道に触れるのはさぞかしドキドキするだろうと思う。メタ的な意味に寄せすぎてあまり視覚的な萌え描写を充実させられなかったかもしれない。洋平が邪魔なネクタイをワイシャツのボタンの間につっこむ動作は完全に萌え描写ですが。
時系列的には次の極楽鳥を探しにの少し前。花道が学生から実業団に入ったタイミングで洋平との同居(ルームシェアという名目)は解消してる設定。25、6歳くらいかな。ちらほら周りの結婚話も聞こえてきて、90年代くらいなら職場やプライベートでもいろいろと「圧」を感じ始める年頃かなと思う。
晴子とその相手を必要以上に下げることなく洋平の内面を吐露させるのに神経を使ったけど、これでもまだ刺々しい表現に映る可能性はある。長編でもこの本でも晴子をさんざんダシに使ってしまったので、彼女を中心に据えた話もいつか書かなきゃいけないのかもしれない。
6.極楽鳥を探しに
表題作。
ドピンク本全体のタイトルは先に決まっていたけど、この話のタイトルにするかは結構悩んだ。次点の候補は「アンハッピー・ネバー・エンド」。「ハピエン」の対義語的な意味にしてもいいかなと思ったけどさすがに好戦的すぎてやめた。
探しに行くキレイな鳥=ここにない何かというのはつまりかれらにとっての完全な幸福のことであり、身体と心が両方満たされた至上のセックスであり、Not for XXXへのアンサー。作中では二度のセックスをそれぞれ洋平(下)目線⇒花道(上)目線、花道(下)目線⇒洋平(上)目線とすべての組み合わせで網羅した。視点こそ入れ替わるもののず~っと(ホントにず~~っと)セックスしてる4つのセクションの抑揚をどうつけるかに悩んだが、ふたりのテンションの上下やセックスへの没入度を変えていくことで工夫したつもり。これを書いて気付いたのが、洋平も花道も挿入される側の方がすんなり書きやすく、する側の表現は単調になりがちだった。やはり自分が想像しやすいのはこっちなんだなーという納得感と少しの悔しさがあった。
どうやら一部世間さまには「フェラチオは受けが攻めにするもの」という習わしがあるらしく、攻めがフェラチオをする場合は注釈が付記されるものらしい。知らんけど。それってすんげージェンダーバイアスの内面化じゃないっすかねと常々思うので、ここでは洋平(上)に執拗なやつをやらせた。世の男はフェラを求めるなら同等にクンニをすべきだし、女オタクはシコれるとか抜けるとかオブラートに包んでないではっきり濡れると言えばいいと思う。今気づいたんだけど他の話でも洋平がフェラする方ばっかり書いてしまったな…。
花道が洋平を「わからせて」終わるのは長編と被っている。結局長編でもエロでも同じことをしてるし、これ以外のパターンを思いつける気がしない。
結局洋平が何のわだかまりもなく花道の手を取れる、その瞬間が大好きです。なんぼでも読みたいからだれかもっと書いてくれ。
1カ月かけて4本の修正と2本の書き下ろしを書いて、結局B6で94ページの薄い本ができた。
初めて正面からそれなりのエロを書いてみて、エロを書くことは自分の性欲や身体感覚に向き合うことでもあって面白かった。ポルノとして、他の人が読んで興奮できるものかどうかはまだ分からない。でも少なくとも自分にとっては興奮できるものになったと思う。お前はふたりが幸せに抱き合ってるだけじゃなく、こういう文脈の中でしか興奮しないんですかと言われたらイエスなんでしょうね。かれらには少し悪い気もするけど。
どっちの本のふたりもずっと幸せでいてくれよ。