Seize The Star

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Liar,Liar

「よーへー、っこの……嘘つきヤローめ」
「なに」

 後ろから挿入したまま背中に点々と赤い跡をつけることに執心していた俺は、花道のとぎれとぎれの文句を耳にして顔を上げた。冷房のかかっていない部屋は蒸し暑く、きれいに盛り上がった背筋の谷間に自分のと花道の汗が溜まっている。ふうと息をついて、しばらく動かしていなかった腰をやや乱暴に動かすと、下で花道が呻いた。

「おまえ、嘘ばっかじゃねーか……あっ、嫉妬、しないとか」
 言われてようやく思い至った。昼間のことか。

 花道は大きな虎がのびをしているみたいに畳の上に四つん這いになって尻を高く上げ、シーツ代わりに敷いたバスタオルを両手で握りしめている。首筋はじっとりと汗ばんで、こちらから表情は見えない。少し苦しそうだけど、セックスの時にだけ出す、鼻にかかったような甘い声がずっと漏れている。虎っていうより今は猫だな、なんて俺は最低なことを思いつき、下半身の刺激と自分の最悪さの両方にクラクラする。

「はっ、嘘じゃないって。他人には、……ン、したことねーよ?」
 一度もな。俺は笑って、穴の奥をえぐるように動かしながら、腹の下で上向いて揺れている性器を手探りでぎゅっと握りしめる。花道が半泣きみたいな声を上げた。
 今のはちょっとキツかったかも。ごめんな。

 花道の言ってるのは、昼間一緒に見た番組のことだ。少し前に収録しに行くとき、地上波じゃないけどテレビに出るんだぜと誇らしげにしていて、それで深夜番組をちゃんと録画しておいたやつを一緒に見た。海外大会の直前企画としてバスケの情報番組に呼ばれた花道は、画面の中でタレントの女の子たちに挟まれて照れていた。バスケの話と、プライべーとの話が半々くらい。所属チームのホームタウンで食べ歩きロケ。そして、問題のシーンは最後の方に流れた。
 女の子たちのどっちが好みか司会に聞かれた花道は赤くなって視線をさまよわせながら「え、選べないっす、二人ともお美しくて……」と蚊のなくような声で答えた。すかさず「桜木選手かわいー!」と黄色い歓声が上がった。これを見たファンもきっと同じように感じただろうなと思った。野獣みたいに荒々しくてプロらしくストイック、なのに意外と初心なところもあるでっかい男。こりゃまたファンが増えるな。
 じゃあ二人に激励してもらいましょう。司会の男がそう言って、両脇から腕を取られ「桜木選手、代表活動がんばってくださ~い!」と可愛げたっぷりに応援され、真っ赤になった花道のアップで番組は終わった。

 気付くと花道が気まずそうな顔でこちらを見ていた。こんなん放送されねーと思った、もっとまじめな方があったんに、とかなんとか、消えそうな声で言って、ごめんとつぶやいた。洋平はむしろその反応に驚いて、何、お前俺が怒ると思ってるの?くだらねー嫉妬なんかしねーよと笑い飛ばした。本当にこんなのはよくあるいじりだから。どんなに最悪だって、おまえは全然悪くないよ。

「あんなのは、ほんとに、何でもないよ。マジで」
 股間を握る右手と尻を掴む左手で筋肉の塊みたいな質量のある腰を固定して、いつもの場所に一定のリズムで先端を擦りつける。やわらかい凹凸が伝える摩擦と、締め付けてくる圧力と、内側の温度。花道の声色が狙いの正確さを教えてくれる。穴のふちからあふれ出たローションが陰毛にからみついて乾いていく。

 嘘じゃないさ。
 俺ほど花道を大事にしてきた人間はいないし、この先だってきっといない。独りよがりかもだけど、誰にも負けねぇってその点だけは胸を張れる。って、こんなヤり方しながら言えたことじゃねーか。でも本当、それだけは唯一自信あんの。だからあんなのはなんでもない。それにもし仮に、万一だぜ。この先花道が俺じゃない他の誰かを選んだとしても、それは花道の選択であって、自由だろ。

 俺がイラついてるとしたら、そうだな。やっぱりイラついてるみたいだな、お前の言うとおり。多分それは、ただ長い時間練習したり、日本中や時には世界中飛び回って試合に出ることとか、それだけじゃなくて食事や生活もいろいろ節制してさ、あんな仕事まで頑張ってこなして……でもそれって全部、お前がやりたくてやってることだから。

 は、は、と規則的な浅い吐息が聞こえる。性器は俺の右手の中でがちがちになって、興奮で両耳が真っ赤だ。もっと追い詰めたいと思った。汗でドロドロになった首筋に鼻を寄せると花道の匂いがした。視線を下げると左耳の裏側、首の付け根のところに、小さな入れ墨が見える。アメリカ留学中に彫ってきたもので、バスケットボールと一対の翼、そして桜の花びらっていう、花道にぴったりのモチーフだ。初めて見た時俺は、なかなかセンスいいじゃんかと笑った。
 汗で光るそこに、そっと唇を落とす。
 この刻印は花道の身体から一生消えない。あてつけに今、俺の噛み跡をつけてみたところで、花道はきっと気づきもしないだろう。

 ――俺はね、花道。絶対勝てねー相手に妬いてんの。

「……じゃあ、なんでっ」
 振り向いた瞳に涙の膜が張っている。罪悪感と加虐心で内臓が引き裂かれそうになりながら、なぜか口からは乾いた笑い声が出た。

「お前が選手引退したら、教えてやるよ」
 後ろから左耳の中へ言葉を流し込んで、一度引いた腰を思い切りねじ込んだ。花道はひときわ大きくひと声鳴いて、背中をしならせた。

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