Seize The Star

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nameless ever

 陽が落ちた部屋で、腕の中の身体をつよく抱きしめる。

 オレよりもだいぶつくりが小さくて、でもその分ぎゅっと中身が詰まってる感じがする。この身体に今から何をするのか、想像するとたまらなくなって、思わず濡れた黒髪に鼻先を押し付けた。抱きしめたまま深く息を吸い込む。洋平の地肌と、自分のと同じシャンプーの匂い。あったかい手のひらが背中の上で、何かを探すみたいにして動き回っている。オレは互いの息づかいと、布が擦れる音に耳を澄ませる。静かだ。洋平とこうしてると、まるで世界にオレたちしかいないみたいだといつも思う。

 洋平とオレが『こういうこと』をするようになったのは、ふたりで暮らし始めてちょうど二年くらいになるころだった。

 大学まで走って三十分、洋平の勤め先にはバイクで一時間の距離に借りた部屋で、バスケして、走って、筋トレして、一緒に家事して食って寝て、あとたまに授業に出て。オレたちの同棲生活は、まるっきり高校の延長みたいだった。だから、別に何かきっかけがあったとかじゃあ全然ない。オレにとってはそうすることはごく自然だったし、何ならなんでもっと早くにこうならなかったのか、今考えると不思議なくらいだと思う。
 まだ寒いのに春の匂いがして、妙にそわそわする夜だった。布団が薄いとか風邪気味だとかなんとか理由をつけて洋平の布団にもぐりこんで、身体をくっつけてるうちになぜかふたりとも股間が元気になって、で、気づいたら夢中で抱きしめあってキスしてた。
 翌朝になって洋平のやつが『ごめんな。人恋しかったんだよな、お互い』なんて、まるで”ついうっかり間違ったことしちまった”みたいに言うもんだからすげー腹が立った。『オレはよーへーに触りたかっただけだ』って言ったらこいつ、目を白黒させて今まで見たことないような間抜けな顔してさ。口をパクパクさせて、それから情けねー声で『そんじゃあ、また今度やってみる?』って聞くもんだからオレは『気が向いたらな』って意地悪してやった。別に一方的に何かされたなんてこれっぽちも思ってねーけど、こいつがずっとオレに大事なことを隠してたのに気づいて、それが少しだけ気に入らなかったから。

 部屋着のスウェットの上から尻のあたりを撫でていた手がシャツの中に入ってきて、ひとしきり腹を撫で回してから裾を持ち上げようとした。オレはその動きに合わせて、バンザイの姿勢でシャツを脱がせてもらう。けど立ったままだと洋平の手は肘のあたりまでしか届かない。オレはちょっと笑って、上半身を前に屈めて腕に絡まったシャツを自分で床に脱ぎ捨てた。その間、洋平はオレの上半身をじっと見つめていた。
「なぁに見てんだよ」
「何って…腹筋」
 洋平は感情のこもらない声でそう言った。オレはわざと筋肉を見せつけるように身体を捩じってポーズをとってやったが、それには特に反応しないまま、ひとさし指で腹の上を順々になぞっていく。こういう時の洋平はちょっとなんつうか、シツヨウな感じだ。脇腹の斜めに伸びたところ、骨盤のふち、六個に分かれた腹筋、へそのくぼみ。硬く乾いた指先が身体の凹凸を確かめるようにして滑り、それから手のひらで全体を撫でる。確かに大学バスケの食事と筋トレのおかげでずいぶん厚みが増して、仕上がってきたとは思う。
「イカすね」
 ため息と一緒に独り言みたいにつぶやいて手を離すと、もう一度頭のてっぺんから足元まで順に視線を送りながら、納車された新しいバイクを眺めるときみたいに目を細める。ちょっとヘンタイっぽいぞお前。オレは呆れるけど、悪い気はしない。大学でのトレーニングがこの身体にもたらした変化が、洋平はずいぶんとお気に召しているらしい。

 見てるだけで満足ならオレに触らせろとわざと強引に腕を引いて、敷きっぱなしの布団の上に向かい合って座らせた。風呂から上がってきたところを捕まえたので、実は脱がせるまでもなく洋平はパンイチだ。黒い下着の股間は、まだいつもの大きさに見える。オレは洋平の正面に膝立ちになると頬を両手で挟んで上向かせた。こうすると、きれいな首筋がよく見える。鎖骨のくぼみからまっすぐ伸びる筋と、喉元のゆるやかな出っ張り、ほどよく張ったえらと、つんととがったあご先。オールバックにするとよく映えて、オレは洋平の身体で首筋が一番好きかもしれない。早く触りたくなって、上から覆いかぶさるようにして唇に吸い付いた。と、勢い余って前歯が当たった。合わせたままの唇の端で洋平が「うわ、雰囲気ねーな」と笑う。黙ってなと返す代わりに、洋平の頭を固定しなおして真正面から瞳を覗き込む。そうすると、洋平も軽口をやめてオレの目を見返してくる。洋平の目にオレだけが映ってるのを見ると、満たされた気持ちと、もっと深くたくさん欲しいという真逆の気持ちが、どろどろに混ざり合って腹の奥からせり上がってくる。幸せなのに苦しい。こんなにきれいだと思うのに汚くて怖い。何がこんな気持ちにさせるのか、オレにはわからない。そのまま洋平に近づいて、視線を外さないまま唇をゆっくり合わせる。はじめは閉じたままで少し尖らせた唇の弾力を確かめるように、洋平の薄いそれに何度も押し付ける。それから合わせ目にそっと舌を這わせて、洋平が口を開くのを待つ。唇の隙間で舌先が合わさったら、あとはもうただ必死に舐めて絡めて吸って、そこらじゅうぬるぬるに濡れて、考える余裕がなくなる。

 合間に、は、と短く息を吸って「きもちい」とこぼすように言う洋平の目は、黒々として潤みながらオレを見上げる。
 それでオレはまたたまらなくなって、ようへい、ようへいって子供みたいに呼びながらキスを繰り返す。

 裸の上半身に洋平の胸が触れ、二本の腕がオレを抱き寄せる。肌と肌がぴったりあわさったところから、洋平の体温を感じる。この部屋には、昔あいつらと見たAVの中のような嬌声も、相手を無理やり組み敷く腕もない。オレが生まれて初めて裸で触れ合った他人は、夢見たような可憐な女性ではなかったけど、この世で一番オレに優しくて、全然違うのに何もかも同じで、誰よりも溶け合ってしまいたいと思えるやつだった。
 つよく吸って、唇を押し付けて、舌でくすぐって、もっともっと深く。だんだん粘膜の境界線がわからなくなっていく。洋平の口の中はあんまり熱くて甘くて、こんな味がするなんてオレはずっと知らなかった。

 目を閉じてキスしてたら、太ももや脇腹をゆっくり撫でていた洋平の手がそっとオレのちんこに触れてきて、たまらず腰をこすりつけてしまう。洋平のも、オレが。手を伸ばす。
 きもちいい、きもちいい、きもちいい。
 こいつの頭の中もきっと今こんな感じだろうか。そうだったらいいとオレは思う。



 大きく開かせた足の間に跪いて、下着一枚になった花道の腰を抱えた。大きくてしなやかな太ももの筋肉のやわらかい内側にまずひとつ、バスパンの裾で隠れる位置に小さな跡をつける。運動したり興奮すると花道の肌はますます血色が良くなって、日焼けしてない場所は淡いピンク色に変わる。暗い部屋では見えないけど、きっと今ここはピンクに染まっている。撫でると表面はすべすべと滑らかで、この脚がゴール下で獣みたいな跳躍を生むとは信じがたい。
 さっきので勃った股間は今もゆるく勃起したままだ。下着の上から両手で包み込んでやわやわと揉んでみると、中心が一段硬さを増して膨らむのが分かった。その様子を見て口の中に唾液が溜まる。パブロフの犬、あるいは条件反射。なんでもいいけど、とにかく俺の脳ミソが次を期待している。

「おい、やらしー触り方すんな」
 ちょっと気が早いけどそろそろ取り出そうかと考えているところに、抗議の声が降ってくる。
「いいだろ?やらしーことするんだから」
 下から見上げて茶化すと、花道は熱っぽい目に笑みをうかべて「すけべ」と返した。
 ああ、すけべですとも。学生のころから、どうにかしてお前の身体に触りたいとずっと思ってたくらいには。

 パンツをずらして、花道のちんこを取り出す。花道は両手を後ろについて成り行きを見守っている。やらしーことの主導権をこちらに預けることにしたらしい。それじゃあ、と俺は好きにやらせてもらうことにする。
 手始めに鼻先を陰毛に埋めてスンスンと匂いをかいでみる。風呂場の牛乳石鹸。続いてちんこを腹の上に倒して裏側の根本の方も確かめると、今度は石鹸の香りと一緒に、花道の濃いにおいがした。また唾液が出てきたので、そのまま裏側をベロリと舐めた。二回、三回、もっと。犬がするように広げた舌でベロベロ舐めて、ちらりと花道を見上げる。まだ余裕か。
 竿を舌で愛撫しながらだんだん先端の方へ移動して、それからカリの周りをくまなく丁寧に舐める。俺の唾液で全体がぬめりを帯びてきたところで、根本の方を握ってゆっくりと上下させはじめる。花道の性器はあたたかくて、手のひらに伝わる温度が気持ちいい。花道も気持ちよさそうに、時々耐えるように眉を寄せながら目をつぶっている。力加減はそのままで、少しずつ手の動きに緩急をつけてみる。サテン生地みたいにつやつやした先っぽには、わずかな光を反射して丸い水滴が光っている。舌を当てるとわずかにしょっぱい。花道の、体液の味。亀頭をがぶりと咥えて口の粘膜全体を使って吸い上げ、舌で表面の凹凸をまさぐる。花道がたまらず鼻にかかった声を上げて腰を浮かす。手持無沙汰な左手を腰に回して、動けないように抱え込む。頭全体を花道の腰にうずめて、俺は没頭していく。

「よーへー、もう、いいだろ」
「ん」
 やがて花道にゆるく押されて顔を上げると、自分が舐めるのに夢中で酸欠気味になっていたのに気づいた。解放された花道が、張り詰めたちんこのむこうで大きなため息を吐く。苦しいくらいの方が気持ちいいのはなぜだろう。少しぼーっとする頭で花道の上半身を倒し、布団の上に向かい合って寝転んだ。サイズが違いすぎるせいで、花道の股間を握ろうとすると俺の顔は胸のあたりまでしかいかない。それならそれで、と鎖骨のくぼみに額をこすりつけて、やわらかな胸筋に唇を落とす。花道の片腕に頭を預けるとそのままゆるく抱え込まれて、上から絶え間なく吐息が降ってくるもんだから、ますます脳ミソがふわふわして困る。
 右手で親指と人差し指を輪っかにして花道のを扱きながら、左手を背中から尻に回す。バスケ選手は皆そうだけど、中でも花道の大腿筋は信じられないほど発達して、ふたつの山が大きく盛り上がっている。その昔、仲間内で”胸派”か”尻派”かという不毛な議論で盛り上がった。意見を強要された俺はなるべく淡泊を装ってケツと答えたが、そのときひそかに思い浮かべていたのは花道のだった。今も手で撫でれば、背中と尻の筋肉の境目が寝転んでいてもはっきりわかった。指を這わせて、尻の割れ目を奥へと進む。窄まった穴のさらに奥の、すべすべして膨らんだところを揉むようにすると、花道がわずかに声を漏らした。人差し指と中指の腹でそこを押しながら、手のひら全体で竿をゆっくり撫でる。花道の胸に顔をうずめて股間と尻の奥をいじっていると、うしろから降りてきた長い指が俺の尻をまさぐって、真似するように谷間を優しくなでたり押したりし始めた。身体の隙間で充血しきって刺激を欲しがっている股間の感覚とは別の、輪郭がはっきりしない快感が加わる。
『ここに前立腺ってのがあるんだって』と教えた時、花道はあまり興味がなさげだった。でも前を舐めたり扱いたりしながら触ったのが良かったらしく、俺にも時々やってくれる。花道は自分が気持ちいいことを必ず俺にもする。シンプルで率直な愛情表現は、俺のと違っていつもまっすぐ届く。前立腺を押す花道の指が一瞬芯を捉えそうになって、体温が上がる。気持ちいいけどもどかしい感覚に、俺は花道のを握る手の力を少し強める。
 もし。もし、俺たちのどっちかの身体が女だったなら。

「なぁ、これってセックスなのかな」
 秘密を打ち明けるように小さく耳元で囁いて、赤くなった耳のふちを舐め、差し込んだ舌先で穴の壁面を撫ぜた。それからじゅる、とわざと煽情的に濡れた耳たぶを吸う。こうすると花道が喜ぶから。
「くだらねーこと、言うな」
 花道はよがる代わりに少し怒ったようにそう言うと、上半身を屈めて、さっきまで自分のを含んでいたオレの唇をふさいだ。温かく分厚い舌を受け入れれば、すぐに絡みついてくる。薄目を開けると、一心にキスを味わっている花道の顔が見える。花道はこういうときでも真面目で一生懸命だなと思った。少し近すぎてうまくピントが合わない。代わりに鼻から抜ける声が鼓膜を揺らす。世界でおれだけが、聞くことを許された声。決してひとつにはなれないのにこんなにも五感の全部が埋められていくのが、うれしくてかなしい。
 花道がおれのに手を伸ばしたので、口の中にたっぷり溜めた唾液を指で掬ってから、二本まとめてふたりで握りこんだ。同じリズムで、ぬるぬると上下に動かす。てのひらもちんこも、次第にどっちがどっちのかわからなくなって、勝手に腰が揺れる。声が漏れる。上も下も熱くて気持ちいい。熟したようにほてった全部の粘膜を、こいつのとくっつけてこすり合わせて、ああ、一緒になりたい。花道も同じだろうか。

 俺たちがこの部屋で毎晩のようにしていることを、世界中の誰も知らない。
 友達、カップル、家族。結婚によって結ばれる男女だけが”正しい”かたちである限り、俺たちにしっくりくる呼び名はきっとどこにも見つからないだろう。
 知り合いが、仲間たちが知ったらどう思うかな。そんなのは心底どうだっていいのに、実際のところ俺たちは全然ふたりきりなんかじゃなく、この世界の中で生きてる。
 こんなことを続けた先に約束されているものは何もなかった。
 今はただ目の前に、ふたりぶんの身体と心だけがある。

 ほとんど同時に達して、出るがままに精液がお互いの腹を濡らした。
 混ざったそれをふざけながら伸ばしたり舐めたりしてると、そのうちまた身体が熱くなったので、「すけべ」らしくじっくり時間をかけて二回目をした。今度は花道が丹念に口でしてくれて、俺は少し泣きそうになりながら上ずった声を上げた。
 肌の上でカピカピに乾いた精液を熱いシャワーで洗い流しながら笑いあった俺たちは、その後コンビニへ夜食の買い出しに出かけた。

 明日も、明後日も、その先もずっと、今日のような日が続けばいいのに。
 花道と並んで、けれど意識的に友人同士にふさわしい距離をとって歩きながら、そう思った。

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