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ブルーアンバー各話解説(前)

 back number のブルーアンバーという曲、もしかしなくても超メジャー曲みたいですね。と今更AppleMusicの2025年ヒットチャートを流しながら知るなど。

 ここでは2025年末に発行した同人誌「ブルーアンバー」の各話解説的なことをしたいと思います。主に自分用の記録として、またこの本をお手に取ってくださった方の中に奇特にも「この作者はどういうつもりで書いてんねん」という興味を持たれる人がいたなら、お暇潰しにでもなれば幸いです。

 さてまずはタイトルについて。

 もとは「青の幽霊」というタイトルの連作として短編をいくつか作っていたのですが、当初からどうも地味だしパッとしねーなーと思ってて、続きを書くにあたって既存の内容も改変するつもりだしいっそ改題して出すか!と検討開始。 書き進めて結末がぼんやり見えてきたころ、ようやくこの表題を決めました。
 洋平が花道への気持ちを胸の内に押し込めて歳月が経ち、再会した二人が過去と折り合いをつけて新しい関係性に踏み出す、みたいな内容なので、時間の経過や奥深くに閉じ込められた輝きというイメージで、鉱石をモチーフの候補に。洋平のイメージカラーといえば青。青い石となるとサファイア、アレキサンドライト、トルマリン…どれもカットされた宝石のイメージが強くてちょっとキレイすぎる。じゃあトパーズかラピスラズリか?うーん。。もっと有機的な感じがよくって、琥珀がピッタリなんだけど褐色だよな。青い琥珀ってないのか?

 で、検索するとあるらしい、青い琥珀。ブルーアンバーといって特定の地域でしか採れない希少な琥珀、しかも一見金色に見えるのに紫外線に当たると青く発光するとな。紫外線て太陽光もじゃん?太陽に当たって青く輝くの??え、なんという水戸洋平……。
 オタクの妄想と思い込みであっさりこれに決定。ここで初めて同じ題名の創作物があったら諸々気ぃ遣うよな~と思ってググってみる。するとどうやら今年やってたドラマの主題歌で同名の曲があるらしく、トップでヒットした。すっかり流行に疎くなった四十路はヒットチャートなど知る由もなく、バンドは存じ上げていたものの曲は完全に初耳。この話を書く時のイメソンはもっぱらChevonの「サクラループ」や「愛の轍」だったし。自分が知らなかったとてドラマ主題歌ともなればかなりメジャーな曲に違いない。悩ましい、悩ましいが……。

 結局「これしかない」という直観に抗えずにブルーアンバーに確定。ブルー・アンバーにするとか英語表記とか被り感を軽減するための小細工も考えたものの途中でまぁいっか~となり、最後までそのままになった。back numberさんのブルーアンバーはじっとりした情念がこもっていて(私見です)とても良い曲でした。白状するとこれならタイトルかぶっててもいっか!という傲慢な考えもちょっとあった。この曲を大好きな誰かが微妙な気持ちになってたら申し訳ないです。ごめんなさい。
2025/12/25追記:Mステスーパーライブでback numberさんの生演奏を見ました。すげぇ良かった…と同時にファンの人には本当に申し訳ないね…。でも後悔はしてない。

 それでは各話解説していきたいと思います。

(1)イグニション:16頁8,100字

 花道がバスケを初めて間もないころ、洋平と大楠が陵南との練習試合の帰りに殴り合う話。 章タイトルは”発火装置”。ライターやエンジンの着火機構をこう呼ぶらしい。大楠にあおられてプッツンキレる洋平の様子を表した。

 この話は「青の幽霊」の一番最初、2023年の6月まだザファにハマって間もないころに書いた。原作序盤の余白を想像した、「大楠が洋平を煽ってキレられる」というワンアイデア・ワンシーンだけの短い話(6,600字)で、いたってシンプル。当時もあまり悩まず勢いで書ききった覚えがある。最終稿にほぼ原形をとどめた形で収録できた唯一の話。シリーズ全体のトーンはこの章から引き継がれている気がするし、後先考えず書いた割に最終的に書きたいものが(無意識に)最初から自分の中にあったのかもと振り返って思う。
 文庫化にあたって冒頭にバスケに出会う前後の花道の描写を少し追加。これも時系列(高校1年春)の提示と、本全体のトーンセットの意図で書いた。つまりシリアスさとかカッコつけ具合の匙加減、そしてバスケとの向き合いや洋平と花道の関係性と同じくらい、それまで折り紙付きの不良として社会に向き合ってきた(それしか方法を持たなかった)彼らの内面の変化を描いていきたいという方向性の提示でもある。花道がなぜ・どのように「不良だった」かを描くことで、洋平との癒着した部分が剝がされていくときの痛みが際立つんじゃないかなと思った。どの程度のラインでこの「不良としての花道(と洋平)」を書くかというのは、ザファのあのワンカットの、光のない目で鉄パイプで殴られ頭突きを返す回想シーンがなかったら、つまり漫画で描かれた不良像だけなら、こういうトーンにはならなかったと思う。もっとギャグ寄りの、朗らかで牧歌的な不良像も全然あると思うけど、洋平と花道と不良とバスケを対比させるならこのラインかなと。冒頭の花道の過去の描写は不良漫画っぽく格好つけることで、辛気臭くなりすぎないのを意図した。
 全体にちょっとジメジメねちねちしすぎかもしれない。ここから始まって最後まで全体的に薄暗い。こういうのが好みなので……。根暗な人間が書いてます。

(2)運命のひと:28頁11,000字

 三井襲撃事件の少し後、洋平の内省と晴子との対話。
 この話も2年前に書いた文章の骨子はそのままで、描写だけブラッシュアップして載せた。冒頭の桜木軍団の3バカの会話パートが結構楽しくて、勢いよく書いたような覚えがある。本全体の中でも会話劇はここだけで、やるならまぁ3バカが一番しっくりくるし、好きな手法入れられてよかったかなと思う。

 2シーン目の洋平が授業中に三井襲撃事件前後を振り返るパートの修正に一番骨が折れた。8ページに渡って一人称の語りが続く。このパートはがんばって整理したけど全部言葉で説明してるのでクドいしダサい。読んでくれている人が初めに嫌になるならたぶんここだろうと思う。だが説明させてくれ、したかったんだ。
 襲撃事件での洋平の振舞いは成り行きではありながら、不良の世界から花道を切り離し、バスケの世界へ送り出すという意思を持たせた。花道との距離はまだ近く、教室で花道の居眠りを見守る洋平自身の決意と揺らぎが共存するような、割り切れない雰囲気が出せてたらいいなと思う。

 3シーン目は赤木晴子との対話。洋平は晴子から一緒に応援に行こうと誘われるがうんとは言わない。この時点ではバスケ選手の花道とのかかわり方がまだわからず、未練たらたらのくせに身を引く方に傾いている。
 晴子もまた洋平と同じコートの外の人であり、自分には手の届かなかった場所をあきらめて今は応援し支える立場の人。洋平にとってこの時まで晴子は「向こう側」を象徴する存在だったけど、次第に親近感を覚え始めている。やがてバスケ選手としての花道を受け入れる上で彼女の在り方がロールモデルとなっていく流れ。

 章タイトルは最後まで悩んだ。あまりぱっとしないけど、晴子が花道の運命の人である(と洋平が思っている)ことと、晴子が言う「神様に愛された人」のダブルミーニングのつもり。

(3)P.N.R.:40頁18,000字

 P.N.R.はPoint of No Returnの略。航空機用語で残りの燃料の関係からもう出発地には戻れなくなる地点のことらしい。
 身を引くつもりの洋平が花道の傍に居続けることを選択するまでの話で、3つのシーンのうち最後だけ既存の文章。大楠とのエピソードはあるのに高宮と野間がちゃんと動く話がなかったので、ふたりを見守り背中を押してもらった。不良不良言ってる割に暴れてるのは1章の大楠との喧嘩くらいで物足りない感じもしたので、いよいよ鬱積した洋平が荒れているところをまず目撃してもらうことに。

 野間と高宮のふたりの内面はあまり掘り下げたことがなかったが、この機会に初めてあれこれ考えてみて楽しかった。荒れ模様の洋平と花道を受け止めてもらうためとはいえ、かれらだって15歳なのに少し達観させすぎたかもしれない。6章以降の現代編でそれぞれ大人になった姿も登場するので、その後どんな人生を送って、どんな大人になっているのかまで合わせて妄想を膨らませた。3人とも、つかず離れず洋平と花道にずっと元気に並走していてほしい(最近”ずっと元気に”のありがたみが分かってきたお年頃なので余計)。野間に雀荘、高宮に購買パンは好きな組み合わせだ。高宮が花道に手渡すのがチョコチップメロンパンなのはちょっとした目配せです。

 洋平と花道の出会いについては、どこまでが公式でどこからがオタクの集団幻覚なのか正直もう定かじゃない。確かなのは和光中で一緒だったということだけ、というので合ってますかね……。いまだによくわからないまま、中学で3バカと出会うより少し前に花道が洋平の小学校に転校してきたという時系列にした。花道の家庭環境や幼少期をどう描くかも二次創作のトーンを決める重要な要素だと思うが、家庭環境については明言を避けた。直接それを書く勇気がなかったからでもあるし、具体的にかれらがどう恵まれなかったかではなく、お互いがどういう存在だったかに焦点を当てたかった。

 この本の花道は洋平と出会った時からボサボサの赤毛をしている。花道は小さいころからずっと、集団の中で大きく強いものではあったけど、異質で孤独だった気がする。私みたいな大人がかわいそうだと手をさしのべようものならきっと振り払ったことだろう。そんな花道が洋平に出会って社会との接点を得、中学で3バカとつるむようになり点が線になって、花道の世界は広がっていったのかもしれない。

 海辺のコートで洋平と花道は久しぶりにまともにコミュニケーションを交わし、花道の言葉で洋平の心は氷解する。ひとりで頭の中でぐるぐる考えて出した結論も、肉体とそこから発された言葉の力を前にしてつくづく無力だよなーと思う。現在編の洋平もそうだけど、どちらかと言えば理屈で考えたがる彼が花道という圧倒的な実存に突き動かされて変わっていくのが好き。花道にとってはバスケがそういう存在なんだろう。原作だと知らん間にそれが完成しちゃってるので、そこに至るまでの行間はなんぼでも妄想してしまう。

(4)エルピス:27頁13,000字

 山王戦の後、高一の秋ごろ~冬の話。冒頭の1シーンのみ既存であとは書き下ろし。
 花道の中にあるだろうケガへの恐怖とか将来への不安を洋平が自分のこととして思い悩み、それを三井寿相手に吐き出す。バスケに打ち込む花道を支援することで、洋平から花道への心理的な距離がますます近くなっていくのに対して、花道の内面は洋平にははっきりと見えない。洋平はそれを「強くなった」と感じるが、果たして。

 親密でちょっとセクシャルな感じ(のつもり)の冒頭シーンは、ここまでの洋平が「花道はあくまで親友です、触れたいなんて夢にも思ってません」みたいに見えたかもしれないので、性的な雰囲気も含めて揺れ動く洋平の内面をにおわせる感じにしたかった。もともとはBLっぽい文章をやってみたくてテーピングのシーンを書いた小話なのでもう少し露骨だったけど、全体のトーンに合わせて少し修正した。花道の肉体の描写はとても楽しかったですね。
 花道にとってケガがどういうものか、正直まだよくわからない。過去のインタビューや現在進行形で、ケガを負った実在の選手たちの話も見聞きした。ケガなんかありふれたものだと割り切って、復帰後に向けて遮二無二頑張るかもしれない。辛かったり怖かったり、そういう気持ちは無用の弱さとして誰にも知られず、胸の内に隠し通して。

 この章では山王戦でケガを押して無理して最後までコートに立った花道とそうさせた周囲、そこで二の次にされた花道の身体と心について、洋平がうっすら感じてきた不安や恐れを表明している。ここまで花道に対する洋平の思いの話だったのが、6章以降の現在編でもう一つの中心になってくる花道の(時として有害な)強さを提示した。このテーマは2年前には全く頭になくて、それ故に続きを書きたくても花道が全然動いてくれず、話の落としどころが行方不明になっていた。その後実力至上の競技スポーツの世界をしばらく見てきた中で、花道側のテーマはこれだと思った。
 モヤモヤをぶつける相手は当初安西先生にしようかとも思ったが、ストレートすぎるのでやめた。安西先生との直接の対峙はこの本では最後まで実現しない。父性との対決はしばしば、自分の中で内面化されたものに向き合うことなのかもしれない。洋平の告白を聞いた三井は、犠牲を払っても本当に欲しいものを見つければ強くあれるのだという話をする。三井は強くあることが良いことだという前提のままので、ふたりの会話は微妙にかみ合っていないのだけど、それでも洋平は対話に満足する。

 洋平が身を引こうとするきっかけが三井襲撃事件だったので、時間を経てふたりが話すシーンを書きたかった。洋平は三井になら他の誰にも言わないことをぽろっと話しそうな気がする。
 表題はパンドラの箱の底にある希望の名前。同名のTVドラマへのリスペクトも込めて。

(5)花に嵐:38頁18,000字

 花に嵐。今検索して米津玄師の曲にもこのタイトルがあるのを知った。青春っぽい感じでいいすね。タイトルは作中で別れの朝に台風が来ることと、井伏鱒二の「花に嵐のたとえもあるさ」からとりました。さよならだけが人生だ。そんな無体な。

 この章も比較的原形をとどめている。洋平の家庭環境の部分など少し書き過ぎていた部分を整理して、これから渡米する花道とは真逆の、地元に残る洋平たちのありふれた暮らしに力点を置いた。洋平の母については現在編の記述を結局削除してしまったので出てくるのはここだけになった。母子家庭であり決して問題のない関係ではなかったとしても、つかず離れず、それなりに気にかけ合っている距離感じゃないかなと思う。誰が見ても完全な不幸や完璧な幸福ではなく、想像の余地のあるままにした。
 何度目かの煙草の描写は花道の隣で本心を飲み込む洋平の鎮痛剤として。喫煙シーンは何度か出て来るのでくどすぎないか心配しつつ、ここでは一服させたかった。煙草吸いながらバイクに乗れるのかとか、バイクの構造やドライバーの動作とか、自分の知らないことがたくさんあった。不自然な描写もあるかもだけど、こういう洋平がイイんだよ!という妄想を形にした。二次創作バンザイ。

 帰宅したアパートに居るのはエプロン姿の…ではなく、いつもの格好で台所に立つ花道。洋平は高校時代にバイト先の彼女と付き合ってて、別れたばかりのところに花道が転がり込んでいる。同棲したら水戸洋平に言ってほしい萌え台詞をいくつかぶっこんだ。だって花道のごはんが楽しみで毎日飛んで帰ってきてほしすぎるだろ。
 夢のシーンからベランダでの独白はさすがにロマンチックすぎるかもしれない。ロマンがないと萌えないし、ありすぎるとくどいから難しいところ。ここでは洋平から花道への目線を、前の章のセクシャルなトーンから任侠の「血の盃」っぽい感じに少しシフト。「俺が女だったら」を言わせるかどうかは悩んだ。ちなみに時系列的にはアメリカの全州で同性パートナーに帯同ビザが下りるようになるのはまだ10年ほど先の話だ。今の世相がこんな感じじゃなかったら、多分入れずに済んだのにと思う。まずは我が国、ごちゃごちゃぬかしてないで同性婚はよ法制化しろよ。

 「洋平は花道を事故の危険に晒したくなくてバイクには乗せない」という、これも界隈ではかなりの市民権を得た設定な気がする。公式でなんかありましたっけ……。特別な日の記念としてのツーリングは、花道にとってと洋平にとってではかなり意味合いが違っていただろう。
 洋平はずっと、花道が一度旅立てば自分のもとには帰ってこないと確信している。これは桜木花道という選手像をできるだけ仔細に妄想してみた私の確信でもあるし、洋平の予防線でもあり予言の自己成就のようなところもある。花道も成功を収めるまでは日本には戻らないという決意をもって旅立ち、目標のためには日本でのよすがを捨て、犠牲にしても仕方ないとさえどこかで思っている。この時はこれで良いのだと思うし、これしかなかったでしょうね。

幕間

 出せない手紙とかけられない電話。
 ちょっとおセンチに過ぎるのは本当そうなんだけど、過去編と現在編のつなぎとして、花道と洋平が疎遠になる経緯の断片を書いた。仮にこれが2010年代の話なら、状況は全く違ったかもしれない。物理的な距離、通信手段のなさ、加えて花道は昔のように洋平を手放しに頼ろうとはしない。出せない手紙を洋平はどうしただろうなんて想像して勝手に堪らなくなる。もっとカラッとして、あいつが向こうで頑張ってるんだから負けてらんねー!みたいなのも全然ありだけど。じめじめモヤモヤしたままなぁなぁで時間が過ぎてなんとかなる、みたいなこともあったかもしれない。

続きは後編へ。

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